東急ハーヴェストクラブ勝浦
房総に住み、房総を描き続けるパステル画家の静遥さん
そんな画家がこよなく愛する里山の風景を訪ね古き良き日本の情緒を慈しむ旅へ出かけませんか
My Harvest
房総の風景を約二十年に渡り描き続けるパステル画家がいる。柔らかな筆致と豊かな色使いで、房総への慈しみや穏やかな暮らしが伝わるような心温まる空気感が作品の特徴だ。その画家の雅号は静遥(しずはる)という。
「房総の魅力は、里山があり、そこをローカル線が走り、棚田があり、海があること。日本の原風景が凝縮されていることです。日々、自転車やバイクで野山や集落、細い路地を巡りスケッチをするスポットを探しています。場所を見つけたら、どの季節の何時ごろがいいのかを考えて再訪し、その場で一気に絵を描き上げます」
今回の特集ではそんな画家おすすめのスポットと房総の風景の楽しみ方をご紹介。里山を眺めつつのんびりと過ごせば、忘れかけていた日本のよさを改めて感じられるかもしれない。
房総にはローカル線がいまも元気に運行している。ローカル線に乗車しながら、途中下車して一駅、二駅の区間をのんびり歩いてみると新しい発見や出会いがあるかもしれない。
そのひとつがいすみ鉄道だ。いすみ鉄道は小湊鐵道との接続駅上総中野駅からJR外房線に接続する大原駅間を結ぶ、歴史あるローカル線で、何度も廃線の危機を乗り越えてきた。里山の風景を楽しむなら上総中川駅〜国吉駅〜新田野駅周辺がおすすめだと静遥さんは語る。上総中川駅から新田野駅までは約5km余り。3月中旬〜4月上旬には、沿線に菜の花が咲き、黄色い絨毯を敷き詰めたような圧巻の景観が広がる。途中の国吉駅には古い車両が展示されており、内部の見学も可能。沿線散策を楽しみながら気の向くままのんびり歩こう。レンタサイクルを利用してトンボの沼や万木城跡公園へ足を伸ばしてみるのも一興だ。
また、上総東駅も静遥さんお気に入りの無人駅。プラットホームにはいまではなかなか見ることができないレトロな木造の待合所が残り、往時の情緒に浸ることができる。
折りたたみチェアを携帯し、お気に入りの場所に座って持参したコーヒーなどを飲みながらアウトドアを楽しむチェアリング。房総の風景を楽しむ際にも活用してみてはいかがだろう。
今回、ご紹介するとっておきのチェアリングスポットは、鴨川から保田に通じる長狭街道沿いに広がる大山千枚田周辺の棚田だ。観光客でにぎわう大山千枚田の展望台から見えるのは東側に広がる棚田だが、さらに2〜3分丘を登ると西側の斜面に広がる棚田を見ることができる。特にサンセットに向かって刻々と変化する棚田の夕景は必見だ。
ゆっくりと座っているだけで、ときおり吹き抜ける風にざわめく木々、鳥の声、移りゆく雲や陽光などが感じられるようになってくる。ただ立ち止まるだけでは見逃してしまう、その場の空気感がより鮮明に心に刻まれるだろう。
山の風景をスケッチしてみるのもおすすめの過ごし方。大げさな道具は必要なく、ハガキほどの紙と鉛筆一本で十分だ。スケッチは直接対象物を隅々まで時間をかけてしっかり見る。そうしていると風景の細部にまで視線を送ることになり、新たな気づきがあるという。
内房海岸に近い内陸部には、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の舞台となったといわれている富山(とみさん)をはじめ、房総丘陵で唯一山名に“岳”がつく伊予ヶ岳、房総の山々や東京湾、太平洋の眺望が素晴らしい御殿山など、標高300mクラスの山々がある。その周辺に広がる丘陵地や谷間などは梅や山桜が咲き乱れ、甘い香りに包まれる桃源郷のような別天地になるそうだ。遠くに山々を望む里山の季節の移ろいを、花のある風景とともにスケッチしながら愛でるのも楽しい。
静遥さんが描画に用いるパステルは、粉末の顔料を粘着剤で棒状に固めた画材。クレヨンのように描くほか、色をのせたところをこすってぼかしたり伸ばしたりと、描く人ならではのニュアンスを醸し出していく。
静遥さんのこだわりは、その場で一つの作品を完成させること。刻々と風化されていく記憶を留めるには、それが最適だからだ。画面からは春の穏やかな空気や初夏の風、秋の情緒、冬の厳しさなど画家がその場で感じた感覚までもが伝わってくる。また、漁村や里山の集落、郵便配達人や道を横切る猫など、そこに息づく日々の暮らしも映し出す。
一期一会の時と場所。柔らかな作風でありながら凛とした佇まいを感じるのは、まさにそこにあった真実が切り取られているからに違いない。そして房総への尽きることのない憧憬。日本に暮らす私たちが心に留めたい原風景がここにある。
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