土屋酒造の店舗。いろいろなお酒の特徴をきいたり、世間話をしたり‥。
造り酒屋の「 あま酒」「酒粕」なる張り紙に、心を誘われる季節。
酒処の信州佐久地方で「あま酒」といえば、造り酒屋が米麹だけで造る、手仕込み、無添加、のものが地元の民垂涎。それぞれ贔屓の酒蔵があるので、冬になると評判のあま酒の話をよく耳にします。酒蔵ごとに麹の量や風味が違うので、いろいろ飲み比べて好みのものを探すのも、冬の楽しみのひとつです。
わが家のお気に入りはといえば、まずはご近所の土屋酒造。
木造りの自然蔵を維持し、手間を惜しまず手造りに徹した、こだわりの造り酒屋。
全国新酒鑑評会で金賞を受賞した『亀の海 大吟醸』(山田錦)で有名な酒蔵ですが、地元浅科の五郎兵衛新田で酒米を無農薬栽培し、ドメーヌ方式で醸した『茜さす』でも話題に。
地元酒蔵の中でも先駆者的存在のこちらは、佐久地方の本格あま酒、市販の元祖でもあります。
そんな土屋酒造のあま酒は、なんといっても麹がたっぷり。そして贅沢にも、精米歩合59%という吟醸造りのプレミアムなあま酒まで造り出すこだわりよう。
磨き抜かれて洗練されたあま酒。
あま酒にもいっさい手を抜かない。土屋スタイルが貫かれています。
ほかにはあまりないので、贈り物にも喜ばれそう。
さらにもう一軒。
こちらは祖父と深いつながりがあった、江戸末期創業の大塚酒造。
小諸で1軒しかないこの酒蔵の杜氏はなんと女性。
さぞかし力仕事であろう酒造りと、小柄なからだで、まっすぐに向き合う姿に心を打たれます。
八ヶ岳、蓼科山、千曲川といった軟水の伏流水を仕込水とする佐久の酒蔵に対し、小諸の大塚酒造でつかう清酒の命たる水は、硬水の浅間山伏流水。小諸でしか造れない逸品を生み出します。昔ながらの土蔵で、昔ながらの製法で、丁寧に丁寧に手造りで醸した『浅間嶽にごり酒』は、あの島崎藤村が愛した小諸の地酒として知られています。
小さな酒蔵ゆえ、大塚酒造のお酒は地元の酒屋やスーパーにはほとんど出回っていない。というか、私は一度も見かけたことがない。もちろんあま酒も。
簡単には手に入らない、幻のお酒。浪漫ですね…。
手に入れるためには、酒蔵の敷地内にある販売室まで足を運ばなければならないのですが、この販売室が必見。レトロで味わい深い、とても素敵な空間。
なぜかほっとする、酒蔵のあたたかみのある空気も一緒に味わってもらいたいので、ぜひ小諸まで足を伸ばしていただきたい、と切に願う次第。
大塚酒造のあま酒も、これまた麹たっぷり。長野県産米の米麹をふんだんにつかった、やさしい甘さ。 昔おばあちゃんがつくってくれたあま酒に似ていて、我が家好みのお味。あとをひきます。
女性杜氏ならではの、かわいらしいうさぎのラベルも、なんだかほっこり。
友人におすそ分けすると必ずリピーターになる、すご腕のあま酒です。
わが家では、冬はあま酒を豆乳で割り、人肌にあたためていただいています。豆乳を入れることで甘さがすっきりし、自然の風味がお口いっぱいに広がります。
たっぷりの麹と、やさしい甘さと、濃厚な風味、という、幸せの三つ巴。
それはもう至福のひととき…なのですが、よい意味で中毒性があるのでご注意ください。
そして冬といえばもう一つ。
冷えたからだをあたためてくれる、酒粕。
定番の塩鮭の粕汁のほか、信州では自家製の野沢菜を粕汁にしたり、寒さが厳しい朝にはおみそ汁に酒粕を少しまぜたり、炒めものや納豆にまぜたりと大活躍。
わが家では酒粕をつかった和風ポトフも冬になるとよく登場します。
この酒粕も酒蔵ごとに個性があるので、あれこれ試さずにはいられない。
いろいろ試しつつ酒粕アレンジのレシピを増やしていくのも、すっかり寒中恒例。 おかげさまで、冬の長い夜も退屈しらずです。
子供の頃は苦手だった、あま酒に酒粕。
今ではどちらも、底冷えのする信州の冬に欠かせない、愛しい、愛しい存在。
そして歳のせいか、こういう昔ながらのものをしみじみおいしいと感じる、今日この頃。
何よりからだが喜んでいる気がします。
残念なことに、この愛しい存在たちは、寒い寒い冬だけの限定販売。
造り酒屋の店内には早くも春のお酒が並び始め、そろそろ「あま酒」と「酒粕」の張り紙は姿を消してしまいそうな気配‥。なんだか寂しくなります。
次の冬がもう待ち遠しい。
土屋酒造
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